リハビリの「急性期」に行うこと
リハビリテーションの初期段階にあたる「急性期」は、病気や外傷の発症直後、主に入院中に対応する医療フェーズです。対象となるのは脳卒中や脊髄損傷、外傷性骨折、術後直後の患者などで、生命維持と合併症予防が最優先される期間です。この時期の訓練や介入は、早期離床による合併症の回避と、できるだけ早く次のステージへと進めるための土台作りという役割を担います。
急性期では「関節拘縮」「筋萎縮」「誤嚥性肺炎」「深部静脈血栓症」「褥瘡」などのリスクが高く、単に安静にしていることが安全とは限りません。医師の指示を受け、リスク管理を徹底しながら、最小限でも身体を動かす支援が求められます。
具体的な訓練内容と目的は以下の通りです。
目的
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実施される主な訓練・支援内容
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関節可動域の維持
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他動的な関節運動(ROM運動)、ベッド上での自動運動指導
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筋力低下・廃用症候群の予防
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アイソメトリック収縮訓練、座位保持訓練
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呼吸機能の改善
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呼吸リハ(深呼吸、咳嗽訓練、口すぼめ呼吸)
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早期離床の促進
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端座位訓練、立ち上がり練習、ベッドからの移乗練習
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意識・認知レベルの評価と刺激
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覚醒レベルの観察、刺激入力、反応性訓練
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訓練時間は一般的に1日20分から30分程度の短時間介入が中心ですが、これは医学的安全を最優先した結果です。訓練量は増やすよりも「定期的な評価と体調管理」が重要とされ、状態に応じて訓練内容を柔軟に変更する姿勢が求められます。
また、急性期では本人の理解力が低下していることも多いため、家族や看護師など多職種との連携が不可欠です。たとえば、訓練後にポジショニングを正しく行うこと、関節を支えるクッション配置など、生活環境の調整も訓練効果を高める重要な要素です。
「回復期」で重視される訓練とは
回復期は、生命的な危険を脱し、機能回復を本格的に進めるフェーズです。脳血管疾患であれば、発症からおおよそ1か月以内、整形外科的疾患であれば術後10日〜2週間を目安に開始されます。主な目標は、日常生活動作(ADL)の獲得を通じて自立度を高め、家庭や社会への復帰を目指すことです。
この時期は、訓練のボリューム・頻度・多様性が最も大きくなります。厚生労働省が定める回復期リハビリテーション病棟では、最大3時間/日のリハビリ訓練が可能で、理学療法・作業療法・言語聴覚療法が連携して計画的に介入します。
主な訓練内容は以下の通りです。
分野
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訓練内容
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使用される道具・手法
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基本動作訓練
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起き上がり・座位保持・立位保持・歩行訓練
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平行棒、杖、下肢装具
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ADL訓練
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トイレ、更衣、食事、整容、入浴などの動作訓練
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洋式便座、衣類補助具、環境設定
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上肢・手指訓練
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握力訓練、物品把持、作業模倣訓練
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アクリルコーン、洗濯バサミ、作業台
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認知機能リハビリ
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記憶、注意、判断力の訓練
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カレンダー訓練、言語刺激、記憶ゲーム
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食事・嚥下訓練
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飲み込み・咀嚼の安全性向上
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嚥下体操、とろみ調整、ポジショニング
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この時期の特徴は「段階付けによる訓練設計」が中心となることです。つまり、現在できること、次にできるようになるべきことを明確にし、それに合ったタスクプラクティスやCI療法などを活用して段階的に機能を向上させます。
維持期・生活期で必要な支援内容
維持期・生活期は、リハビリの集中的な訓練が一段落し、家庭や地域社会での生活に焦点が移る時期です。このフェーズでは、機能の改善よりも「維持」と「活用」、そして「生活の質の向上」が主眼となります。退院後の在宅生活を想定し、再発予防や介助の軽減、自立支援が重要なテーマになります。
維持期においては訓練の場が病院から訪問リハ、デイケア、地域リハビリテーションセンターなどに移行します。以下に、生活期に実施される主な支援内容をまとめます。
支援領域
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目的
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内容
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身体機能の維持
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筋力・柔軟性・可動域の低下予防
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自主トレーニング、ウォーキング指導、体操プログラム
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ADLの維持・拡張
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自立度の保持と生活負担の軽減
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トイレ、整容、料理、買い物などの生活課題の反復訓練
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環境調整
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転倒・事故予防、作業効率の向上
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段差の解消、手すりの設置、道具の配置見直し
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社会参加支援
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孤立予防、精神的満足度の向上
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通所サービス、趣味活動、家族交流の促進
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家族支援
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介助の質向上、負担の軽減
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介助方法の指導、介護保険サービスの活用提案
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この段階では「活動」と「参加」の観点が重要です。ICFでいえば、単に「身体機能」だけでなく、日常生活動作(ADL)や役割行動(IADL)、さらには地域交流まで含めた支援が求められます。