初心者向けタオルワイピングトレーニング
タオルを用いたワイピングのリハビリは、脳卒中や肩関節の拘縮、上肢機能の低下など、さまざまな症例に対して自宅で簡単に取り組める運動療法のひとつです。特にリハビリを始めたばかりの初心者や高齢者にとっては、訓練器具を用いず日常に取り入れやすい点が最大のメリットです。
訓練を始める際にもっとも重要なのは、安全な姿勢の確保です。骨盤がしっかり立った状態で椅子に深く座り、足裏を床にしっかりつけた姿勢を基本とします。机の高さは肘が軽く曲がった状態を保てるよう調整し、背筋を無理なく伸ばすことで、肩関節や肘関節、手関節への負担を分散させることができます。
動作の開始時には、両手でタオルを軽く握り、机の中央に置きます。そこから左右や前後へ滑らせるように動かしていきますが、このとき肩が上がらないよう注意し、肩甲骨がしっかりと動くよう意識することがポイントです。また、動作中に肘を伸ばしすぎないようにすることで、肘関節や前腕筋群への過剰な緊張を防ぐことができます。
以下は、初心者におすすめのタオルワイピング訓練メニューの一例です。
メニュー名
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動作方向
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回数の目安
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主な目的
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横方向ワイピング
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左右に滑らせる
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10〜15回×2セット
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肩関節外転・内転と体幹回旋の強調
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縦方向ワイピング
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前後に滑らせる
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10〜15回×2セット
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肩関節屈曲・伸展の協調訓練
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円状ワイピング
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円を描くように動かす
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各方向5周×2セット
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肩甲帯の可動域拡大と滑らかさ
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クロスワイピング
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斜めに滑らせる
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各方向10回×2セット
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複合的な運動制御と注意力向上
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習慣化のためには、日常生活の中で取り入れやすい時間帯(朝食後、入浴前など)に固定することが効果的です。また、痛みや不快感が出た場合は無理に続けず、一時中止して専門家に相談するようにしましょう。
訓練効果を持続させるためには、1日の中で複数回に分けて少しずつ行う「分割実施」が有効です。長時間継続することよりも、「継続性」と「正確性」が機能回復には重要です。高齢者の場合は、認知的な疲労を避けるため、ひとつの動作を集中して短時間で終えることが理想的です。
また、訓練の導入時にはご家族の協力や、訪問リハビリの指導者によるチェックを受けることをおすすめします。特に片麻痺のある方や弛緩性麻痺の方は、見た目の動作が可能でも、筋肉の緊張度や方向感覚の障害が動作の質に影響していることがあるため、第三者によるフィードバックが有効です。
上級者向けアクリルコーン&応用訓練メニュー
自宅でのワイピングのリハビリを習慣化し、ある程度動作が安定してきた方には、より難易度の高いアクリルコーンや代替道具を使用した応用訓練を導入することで、上肢機能のさらなる向上を図ることができます。
アクリルコーンとは、円錐状の透明なプラスチック製器具で、目標物として使用することで視覚と運動の協調を高める訓練です。ワイピングタオルや布などで机を拭く動作に「目標に沿って手を正確に動かす」という認知要素を加えることができるため、注意力や運動精度の向上に効果があります。
以下のような応用訓練メニューが考えられます。
メニュー名
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使用道具
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内容
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主な訓練効果
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コーン接触ワイピング
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アクリルコーン
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指定位置に置いたコーンを触るようにタオルを滑らせる
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手眼協調、上肢の到達能力
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ターゲット移動ワイピング
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カラーマークシート
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色ごとにワイピング方向を指示
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認知機能、判断力、視覚処理
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時間制限付きラリー
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タイマー・アプリ
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一定時間内に指定範囲を何往復できるかを競う
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反復性、集中力、スピード調整
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アクリルコーンがない場合は、100円ショップで購入できるカラーコーンや紙コップでも代用可能です。重要なのは「明確なターゲットを意識して動かす」という動作の構造であり、器具の素材よりも訓練内容とその目的の明確化が重要です。
訓練を行う際の注意点としては、動作の精度を追求するあまり、過剰な力や無理な姿勢をとってしまうケースがあるため、必ず鏡で姿勢をチェックするか、第三者の観察を受けながら行うと安全です。特に片麻痺のある方は、強い筋緊張により代償動作が生じやすく、肩関節の外転や体幹の回旋で力任せに動作を行ってしまうことがあるため注意が必要です。
また、訓練をステップアップさせる際には、以下の3段階で進行することが望ましいです。
- 一方向でのターゲット接触(例:右前方のみ)
- 複数方向でのランダム接触(例:前・後・左の順に指示)
- 時間内に複数の指示に従う連続動作(例:10秒で3箇所に触れる)
段階的な負荷調整により、機能の維持・向上とともに自己効力感の向上にもつながります。