高齢者が日常的に使用する靴には、安全性が最重要とされます。特に介護シューズでは、転倒防止や着脱のしやすさ、歩行時の安定性が求められます。加齢により筋力やバランス感覚が低下することで、何気ない段差や滑りやすい床が転倒の原因になります。転倒は高齢者の骨折や寝たきりの主要因の一つとされています。こうしたリスクを軽減するために、マジックテープを採用したリハビリ靴が現場で高く評価されているのです。
マジックテープ式の靴は、足の甲部分をしっかりと固定できることが特徴です。ひも靴と比べて締め付けの調整が簡単で、むくみのある足や外反母趾のある方にもフィットしやすく、時間帯や体調による足のサイズ変化にも柔軟に対応できます。また、片手でも扱える構造のため、片麻痺や手指の筋力が低下した方でも自分で着脱できることが、介護現場で重宝されている理由の一つです。
滑りにくいソールの採用も、安全性向上に寄与しています。多くの介護シューズには、床材を問わず高いグリップ力を発揮する合成ゴム製の滑り止めが使用されています。特に室内履きと屋外兼用モデルでは、床材の種類を想定して異なるパターンのアウトソールが用いられており、転倒リスクを抑える工夫が見られます。
また、かかと部分のフィット性も重要なポイントです。かかとのホールドが甘いと歩行中に靴が脱げやすく、つまづきや不安定な歩行を招きます。高機能モデルでは、かかとを包み込むような立体縫製や、履き口に伸縮性のあるパッドを採用することで、歩行時のブレを最小限に抑えています。
介護靴選びにおいては、見た目や価格だけでなく、安全構造がどう設計されているかという点を確認することが、重大な事故を未然に防ぐための第一歩です。信頼できる介護用品メーカーが提供するモデルを選び、滑り止めの性能やフィット性など、複数の視点から総合的に評価することが求められます。
脱ぎ履きのしやすさと自立支援の関係
高齢者にとって「自分で靴を履ける」ことは、単なる動作以上の意味を持ちます。それは自己肯定感の回復であり、自立した生活を維持するための大きな一歩です。リハビリ靴にマジックテープが採用されている最大の理由は、こうした自立支援の観点から設計されているからに他なりません。
実際に、脳梗塞後の片麻痺のリハビリを行っている患者では、両手での操作が難しいケースが多く見られます。マジックテープなら、片手で開閉操作ができ、力加減の調整もしやすいため、サポートなしでも着脱可能なケースが多数あります。これにより、リハビリ施設では、患者本人が自ら靴を履く練習が日課として取り入れられており、着脱のたびに達成感を味わうことで、回復意欲の向上に繋がっているのです。
また、家庭内での介護でも、着脱補助にかかる時間や労力が削減され、介護者の負担軽減にもつながっています。特に朝夕の支度の際、靴ひもを結ぶ煩雑さがないことで、支援が必要な時間が短縮されるという利点があります。これは、施設だけでなく在宅介護の場面でも大きなメリットであり、介護靴の普及において見逃せないポイントです。
マジックテープによる調整機能は、むくみや装具との併用にも適しており、午前と午後で足のサイズが変化する方でも、ワンタッチでフィット感を変えることができます。